気がつけば、ここはメキシコだった

メキシコ在住ライター、小さな食堂『EN ASIAN FOOD』のおばちゃん、All About メキシコガイド 長屋美保のブログ

「〜すればよかった」は存在しないのだ

久々のブログ更新になってしまいました.....。

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現在発売中の月刊ラティーナ2016年6月号で、いくつか記事を書かせていただきました。
「特 集:2010 年 代 の 世 界 の 音 楽◆~中南米・カリブ編~」にて、2010年代のメキシコ音楽を代表するアルバム10枚を選ばせてもらいました。広いジャンルを紹介したかったので、現地のいろんな人にも、アルバム選出のアドバイスをいただき、他ではなかなか知ることができない面白いセレクションになったのではないかなあ〜。宮田信さんのチカーノ音楽をはじめとし、充実した記事なので、ぜひチェックを!
同号では、オイスカルメイツの初メキシコ公演のミニレポートや、アルゼンチンのチャランゴ、ロンロコ奏者ダミアン・ベルドゥンのアルバム・レビューも書いています。
お読みいただけると嬉しいです。
 
さて以下からは、恒例のメキシコシティ食堂日誌です。

 
メキシコについてからというもの、9年以上同じ地区に住んでいる。
 
借りているアパートも、私たちの経営するアジア小食堂も同じ地区にある。
大都会なのに、市場や個人商店があり、人情味あふれるこの地区が大好きで、まったく他に移りたいとは、思わない。
 
もちろん、いいところばっかりではない。
大雨が降ると、下水があふれて、道が川のようになったり、いつも工事中で埃っぽかったり、デモや交通渋滞があると、道がふさがれたりする。
 
毎日誰かの下品な叫び声が聞こえるし、下水管からはうんこみたいな匂いがするし、ゴミは散乱しているから、イライラしている時には、さらにイライラもつのる。
 
食堂の運営を始めてから、コンサートや展覧会へも、時間がないので行けなくなったし、旅に出ることもできない。バイトくんが助けてくれるけれど、責任をひとりで抱えているので、心配やストレスもある。なんでこんな大変なことを選んでしまったのだろうと日々思うし、「もしも、この商売を始めていなかったら、もっと楽だったかも」、と考えることもある。
 
でも、やるしかないんだよ、と思い返す。いつも、その繰り返しだ。
 
うちの食堂には、いろんなひとたちが、やってくるけれど、なかには、路上生活者たちもいる。
 
時々どこからか、卵をもらってきて、「調理してくれ」、と頼んでくる男の子たちがいる。
その卵で目玉焼きを焼くために、割ると、黄身がぐじゃっと崩れる。卵が古いのだ。
でも、彼らは、とっておきの卵が焼けるのを心待ちにしているし、「この卵は古いから食べないほうがいいよ」と、いえない空気が漂っている。とりあえず、卵には、たくさん火を通して焼きあげ、醤油をかけて渡す。
 
また、うちはアジア食堂だと何度も言ってるのに、「タコスをくれ」といってくる男の子もいて、毎回白米をあげるのだが、良かれと思って、ごま塩をかけたことがある。それ以降、彼は「(ゴマ塩が)ネズミの糞みたいで嫌だから、もうかけないでくれ。ポルファボール(お願いします〜)」と注文をつける。
 
さらに、シンナーやアルコールに溺れて、金をせびってくる男の子がいる。
金を渡すと、シンナーを買うから、いつも食べものを渡すようにしているのだが、数日前に、その彼が、閉店間際になって、「何か食べものをくれ」といってきた。
 
その日に限って、食べものが何も残っていなかったので、「もうちょっと早い時間に来ればよかったのに」と伝えたら、
 
「”〜すればよかった”….か。それは過去のことを指している。でも僕らは現在を生きているんだ。
だから”〜すればよかった”ってのは、存在しないのだ。現在を生きなきゃいけない」
 
と、告げて去っていった。
その日も、私はめちゃくちゃ疲れていたけれど、頭のなかには、彼の言葉がぐるぐると回っていた。
 
 
 
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