気がつけば、ここはメキシコだった

メキシコ在住ライター、小さな食堂『EN ASIAN FOOD』のおばちゃん、All About メキシコガイド 長屋美保のブログ

映画よ、さようなら。そして、人生は続く

中学生の頃から地元の映画館に通い、高校時代からは、自主映画制作にはまり、上京後は、ミニシアターでアルバイトをし続けた私にとって、映画館は特別な場所だ。青春時代をほぼ、映画館の暗闇で過ごしたといっても過言でない…..なんて、書くと、本当に暗い青春時代だったように思える。だが、暗闇の中に浮かびあがる光と影が映し出す数々の映画を見れたおかげで、様々な世界を知り、様々な人生に触れることができたのだから、私の青春時代は、とても豊かであった。
青春時代はとうに過ぎてしまったが、メキシコでもなるべく映画館へ行って映画を観てきた。
メキシコでは、海賊DVDがたくさん出回っていて、映画館で観るよりも、だいぶ安く映画を観ることができる。しかし、私の中では、映画を家で観るのと、映画館の暗闇へ身を投じることは、だいぶ違うのだ。
ところが、最近は食堂の仕事が忙しいことを理由に、映画館へ行っていない。
そんな時に、ウルグアイのフェデリコ・ベイロー監督の作品『映画よ、さようなら(原題:La vida útil)』を観る機会を得た。
 
ウルグアイシネマテークで25年働いてきた中年の男、ホセ。上映プログラムの企画、映写、フィルムの管理、場内の椅子の修理までこなす。映画とシネマテークのことだけ考え続け、時間を割いてきた彼だが、密かに想いを寄せる大学教授のパオラがいる。しかし、彼女が劇場へ映画を観に来ても、デートに誘う勢いもない。
そんななか、シネマテークが経営難より、閉鎖することになってしまう。急な立ち退きを迫られ、厳しい現実に打ちひしがれ、悲しむホセだが、シネマテークの閉鎖が、彼の人生にスイッチを入れた。
シネマテークと家の往復という彼のルーティンをぶっ壊し、ついに、愛しのパオラが働く大学へ乗り込んでいく。
 
ここから、私は、なんだか、サスペンスのような、妙な緊張感を抱え、ハラハラしながら物語を追った。
恋する人の職場に押しかけるなんて重いし、挙動不審すぎるし、ここでパオラに嫌われちゃったら、どーすんだ、とか、余計な心配をしながら、ホセの異様な動きを見守る。
映画前半のゆったりとした時の流れからは、想像がつかない展開である。前半では、シネマテークには活気がなく、監督が舞台挨拶に来ても観客はまばらで、盛り上がることなく、(監督も上映中に、とっとと帰ってしまうくらいだし)、ホセ本人も冴えないので、ちょっと窮屈な思いで映画を観ていた。だけど、シネマテークの終末をきっかけに、映画とホセが生き生きとしてきたのである。
 
さて、これ以降の物語の詳細については、何もいうまい。
ホセの最後の言葉が、この映画のすべてを物語り、グッときた。
これこそ、映画の魔術。
そして私も、その魔術にかかったまま、人生を続けている者たちのなかの、ひとりなのである。
久々に映画館へ行こうかな。
 
映画『映画よ、さようなら』(Action, inc 日本配給)は、2016年7月16日より、東京・新宿のK´s Cinemaにてモーニングショー公開中だ。
ぜひぜひ、映画館の暗闇で、この作品を楽しんでほしい。きっと、映画を観た後は、その日の足取りも軽くなることだろう。
 

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公式HP
 
予告編
http://mihonagaya.com/