気がつけば、ここはメキシコだった

メキシコ在住ライター、小さな食堂『EN ASIAN FOOD』のおばちゃん、All About メキシコガイド 長屋美保のブログ

独立通りはいつも

早いもので、メキシコシティダウンタウンの片隅、「独立」という名前の通りに小さな食堂を構えて2年が経とうとしている。
(来月8月19日に、メキシコシティの文化フォーラム・アリシアで、食堂EN ASIAN FOODの2周年記念パーティをやることになったので、もし、その時にメキシコシティへいらっしゃる方はご参加ください!入場無料!詳細はこちら➡︎ Facebook EVENTO ページ
相変わらず儲けはないけれど、アシスタントを2人雇えるまでにはなった。
いつも休みたいと思いながらも、ご飯を楽しみにしているお客さんの顔を思い出すと、閉めることができない。
毎週のように顔を合わせているお客さんの中には、いつの間にか友だちになった人も多い。
これは、小さな食堂だから、成せることなのだろう。
近隣の官公庁や、お高く気取ったミュージアムで生真面目な顔をして働くお客さんたちも、うちの食堂では、その人に戻れるような気がしている。もし、そうであったら嬉しい。
この店を訪れる人たちは様々なのだが、なかには路上生活者もいる。
その中に、いつも卵をたくさん持ってきて、スクランブルエッグに料理してくれ、という信号待ちの車のガラス拭きをしている男の子のトリオがいる。
「あ、ケチャップはかけないでよ。トルティージャで食べるから」
と、味付けの注文も怠らない。
そのトリオのうちの一人が、ある日、訪れて10ペソをくれという。
うちの店では食べ物をあげても、お金は渡さないことにしているので、ダメだといった。
それでも、どうしてもお金が欲しいと、駄々をこねるので、
(それが、シンナーを買って吸うためというのは想像につく)
「お金は渡せないよ。食べ物だったらあげるけど」と、きっぱりいう。
その日は、雷がけたたましく響く、強い雨の降る日だったのだが、
男の子は「あ、〜が空で泣いているよ」という。
ロレツが回っていなくて、何いってるかわからなかったので、何度も聞き返すと
「キリストが空で泣いてるんだよ。キリストだよ。神だよ。神を知ってるだろ?」
というので、
「ううん、知らない」と応えると、
「本当に君は神を知らないの?」
「私は神を知らないよ」とこたえたら、
「神を知らないだって?君は誰から生まれたんだ?」
「お父さんとお母さん」
「じゃあ、そのお父さんとお母さんは誰から生まれたんだ」
「おじいさんとおばあさん」
「おじいさんとおばあさんは誰から生まれたんだ?」
「ひいおじいさんと、ひいおばあさん」
「ひいおじいさんとひいおばあさんは誰から生まれたんだ」
「ひいひいおじいさんとひいひいおばあさん」
「ひいひいおじいさんとひいひいおばあさんは誰から生まれたんだ」
「ひいひいひいおじいさんとひいひいひいおばあさん」
「ひいひいひいおじいさんとひいひいひいおばあさんは誰から生まれたんだ」
「ひいひいひいひいおじいさんとひいひいひいひいおばあさん」
 
………...という会話をひとしきりした後に、
彼が、急に泣きじゃくり始めた。
「神を知らないなんて。そんなひどい話があるか」
そして、私を哀れむような目で見つめて去って行った。
 
そのあと、私はしばらく神について考えた。
神は信じたいけれど、神を実際に見たことはないんだよ。だから知らないと正直にいったのだけれど。
でも、彼にとって神は生きるための糧なんだ。
 
その数日後である昨日、彼はいつも通り、他の仲間二人を連れて、
卵の入った袋を持ってきて、調理してくれと頼んできたのだが、その袋には、珍しいことにチョリソも入っていた。
フライパンにチョリソを入れてよく炒める。
そこで、玉ねぎも少し加えて、卵を入れたら、ますます美味しそうになって、いつもより豪華なスクランブルエッグになった。
それを見て、あの日泣いた男の子は、元気になったような気がした。
 
神も信じたいが、人を信じたいと思った。
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