マイケル・ナイマンの演奏に勇気をもらった夜
はじめまして。2009年よりAll Aboutのメキシコガイドを担当させていただいている長屋美保です。本日からAll Aboutの姉妹版ともいえるこのブログを書くことになりました。どうぞよろしくお願いします。
先日(12月1日)国立芸術院(ベジャスアルテス)でイギリスの音楽家、マイケル・ナイマンへのオマージュコンサートが行われました。
↑ 会場となったのは、世界文化遺産のセントロイストリコ(歴史的中心地区)にある国立芸術院。この建物のなかに、クラシックやオペラのコンサートも行われる劇場、メキシコを代表する壁画、美術館もあり、メキシコ観光の人気スポットです。
↑ 夜のベジャスアルテスがもかなり素敵です。
↑ ベジャスアルテスでは、ティファニーのステンドグラスを装飾に使っています。
ナイマンは、ピーター・グリナウェイの作品群や、ジェーン・カンピオンの『ピアノ・レッスン』の音楽を手がけ、世界的に知られる巨匠なのでご存知の方も多いのではないでしょうか?
その日の演目は映画『ピアノ・レッスン』の音楽である「PIANO」と、新旧のメキシコ映画名作の映像をコラージュしたものを投影しながら伴奏をつける『Distinto Amanecer(それぞれの夜明け)』のふたつ。メキシコのカルロス・チャベス交響楽団と、ロシアのピアニストのDmitri Dudinによる演奏でした。
メキシコのドキュメンタリー映像作家エミリオ・マイレ・イトゥルベ監督による『Distinto Amanecer(それぞれの夜明け)』が面白く、セルゲイ・エイゼンシュタインの『メキシコ万歳!』、ルイス・ブニュエルの『忘れられた人々』、アレハンドロ・ホドロフスキー『エル・トポ』、 アルフォンソ・アラウ『赤い薔薇ソースの伝説』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』といった日本公開作品も含むメキシコ映画の新旧の傑作85本の映像がコラージュされています。メキシコ映画好きにはたまらない取り合わせ。
↑セルゲイ・エイゼンシュタインの『メキシコ万歳!』
↑ルイス・ブニュエルの『忘れられた人々』
↑アレハンドロ・ホドロフスキー『エル・トポ』
↑アルフォンソ・アラウ『赤い薔薇ソースの伝説』
↑アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』
おなじみの映画が豊かな音楽によって、新たな顔を見せるのが興味深かったです。
2つの演目が終わった後に、演奏する予定のなかったマイケル・ナイマンが、ピアノを弾き始めるという、思いがけない贈り物がありました。観客一同大感激。そこで、彼が監督した最新ビデオ作品『Witness 3』を上映し、その映像に伴奏をつけるということをしたのでした。ちなみに、アウシュヴィッツとビルケナウ収容所にいた人々の映像コラージュ作品に、ピアノの演奏が入る「Witness1」と「Witness2」というナイマンの作品があるので、今回の作品はそれに続くもののようです。
その映像にはアヨツィナパの43人の学生たちの写真と、人々が路上でデモする姿が捉えられていました(ゲレロ州のイグアラ市で、2014年9月26日にメキシコシティのデモへ向かう予定だったアヨツィナパの教員養成学校の学生たちのうち6名が警察に殺害され、残り43名の学生たちの行方が未だにわかっていません。いまメキシコじゅうで政府に対しての抗議デモが行われています)。
会場にはナイマンの勇気ある連帯に感動し、涙をこぼす人々の姿がありました。曲の演奏が終わったあと、劇場の観客たちが1から43までを数え、正義を叫びました。
↑2014年12月1日ベジャス・アルテスでのマイケル・ナイマン『Witness 3』演奏映像
本日のコンサートパンフレットの最後には、ナイマンの言葉でこう書かれていました。
イグアラの43人の学生達の虐殺事件を受け、どうか早くメキシコの政治家たちが変わることを願う
マイケル・ナイマンはメキシコシティに住んでいるらしいのですが、なぜか公式プロフィールにはそのことが記されていません。でも、今回の演奏を聴いてメキシコとその人々を心から愛しているのが、ひしひしと伝わりました。それゆえに、決断した行動だったのではないでしょうか。