気がつけば、ここはメキシコだった

メキシコ在住ライター、小さな食堂『EN ASIAN FOOD』のおばちゃん、All About メキシコガイド 長屋美保のブログ

美味しい野菜が、人に優しくない環境で育っていたとしたら

さて、前回の記事「気がつけば、ジェームス・ボンドはすぐそこに」でも紹介した、ジェームス・ボンド最新作のメキシコシティ、セントロ・イストリコ地区でのロケが、同地域の経済的損失を多大に与えているとニュースになっています。ゲレロ州で行方不明になったアヨツィナパの43学生の事件は未だに解決していず、先週もデモが行われましたが、ジェームス・ボンドの撮影のために、人々がデモの最終目的地であるソカロに入れない状況。そんななか、大統領の娘がジェームス・ボンドのロケを見学にきて、はしゃぐ様子が報道され、民衆の逆鱗にふれております。
 
そして、メキシコの国境地帯では、あらたな騒動が。

参考:メキシコのサイトdesinformemonos.org

 

米国との国境に近いメキシコ北部バハカリフォルニア州、San Quintin で数千人の農園労働者たちが、「米国へトマト、キュウリ、イチゴを送るな」という抗議活動を行っています。彼らの労働条件改善を要求するために、3月16日からSan Quintin の車道を封鎖。賃金のアップ、健康保険への加入、コミュニティの権力者による女性への性的虐待をさせないことを政府へ要求しています。
この農民たちの多くは、タラウマラなどメキシコ北部を拠点とする先住民たちで、労働条件を改善するために、30年以上も闘っています。
劣悪な環境で労働に従事する農民たちが育てたトマト、キュウリ、イチゴなどの農産物は安い価格で買われ、米国で販売されているのです。
 
参考にしたDesinformemonosの記事でも例に出されているのが、メキシコ系アメリカ人の活動家、セサル・チャベスの率いた農業労働者組合、Unión de Trabajadores Campesinos(United Farm Workers union。略してUFW)の活動です。
カリフォルニアのワイン用ぶどう農園で過酷な条件のなか働く移民労働者たちが、権利を勝ち取るために生まれた市民団体。移民労働者が権利を勝ち取った後に、メキシコの労働者たちが、不当な条件で働いているのは、何とも皮肉なことです。
 
日本でもUFWの闘いについて描いた『セサル・チャベス』が2014年に公開されていますが、セサル・チャベスの人生をあまりに駆け足で追ってる感じで、私は好きになれなかった映画です。
でも、監督のディエゴ・ルナが、何かのインタビューで「人々は日々食べるものがオーガニックなのか産地はどこなのかにこだわるけれど、その食べ物のために働いている人々のことまでは考えていない。だからこそ、この映画を作った」と発言していたのには共感しました。
 
今回のサン・クィンティンの騒動のように、美味しい食べ物のために、奴隷のように働かされている人々の存在があるとしたら…...それが、たとえオーガニックで育てられ、品質の高いものだったとしても、働く人にまったく優しくない環境で生まれているのだとしたら、美味しく食べることはできないなあと思ったのでした。
 
映画『セサル・チャベス』予告編
 
http://mihonagaya.com/