気がつけば、ここはメキシコだった

メキシコ在住ライター、小さな食堂『EN ASIAN FOOD』のおばちゃん、All About メキシコガイド 長屋美保のブログ

メキシコ全体が墓になりつつある。映画「Pie de página(Footnote)」

 

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Los desaparecidos en México Son un Pie de página que interrumpe el relato ficticio de su democracia”

メキシコの行方不明者たちの存在は、虚構の民主国家を遮るフットノート(脚注)のひとつだ

La película「Pie de página」por Paola Ovalle ,Alfonso Díaztovar

映画『Pie de página(Footnote)』より

 

『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で、アカデミー賞4部門を受賞した、メキシコの映画監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが受賞式の壇上で「この受賞についてのコメントを祖国へ捧げる。私たちメキシコ国民にふさわしい政府が見つかるように心から願います」」と発言したことが話題になりました。その後、イニャリトゥは「汚職は政府だけではなく、メキシコの国土全体の問題」とも発言しています。


2014年9月26日にゲレロ州で起こった43人の学生失踪事件を、連邦警察は、学生が犯罪組織に殺され、焼かれて、その灰を川に捨てられたと1月に発表したが、遺体そのものは見つかっていない。
では「殺されている」と断言する43人分の遺体を、どのように処理したのか?
最近では同州観光地のアカプルコで、60人もの身元不明の遺体が見つかりました。

 

メキシコ全体が墓になりつつある。

そんなことを象徴する、衝撃的な短編ドキュメンタリー「Pie de página(Footnote)」がネットで公開されています。

 

英語版

FOOTNOTE from 2 VEINTE 22 on Vimeo.


スペイン語版

PIE DE PÁGINA from 2 VEINTE 22 on Vimeo.

 

米国との国境にある街、バハ・カリフォルニア州ティファナのふたりの映像作家たち、Paola Ovalle とAlfonso Díaztovar による作品で、全編、ティファナ周辺の砂漠のなかの廃墟を淡々と捉えています。

この廃墟の数々は、犯罪組織の死体処理場として機能していました。麻薬組織抗争に巻き込まれ、行方不明となった者たちが埋められてきた場所なのです。

映画にはナレーションは一切入らず、行方不明者の遺族の姿もダイレクトには登場しません。ただ、遺族たちや、犯罪組織の死体処理を担当していた人物へ取材した内容をテキスト化し、タイプライターで打ち込むように字幕が登場します。そこに記された事実に、ただ驚愕します。

 

まず、犯罪組織が使う「ポソレ化」という隠語。
「ポソレ」とは、メキシコの伝統料理のひとつであり、肉の入ったスープですが、「ポソレ化」とは、死体の形状を極力なくすために、硫酸で溶かした状態のことを指します。「ポソレ化」した遺体を、さらに燃やしたり、セメントと混ぜて土に埋めたりするのです。

遺体は、郊外のリハビリ施設の敷地内の空き地、牧場などにある廃墟の地下に埋められていきます。しかし、歯や、骨、手術のために使った素材が残っていることによって、数年後には、その場所に人間の遺体が無数にあることが発覚し、ひとつの死体捨て場から見つかった人間の身体の成分は 17,500リットルにも及んだといいます。

変わりきった人間の身体からは、DNAすらも判定できない状態になっているのです。

 

バハカリフォルニア州にあるいくつもの廃墟に、行方不明者たちの家族が訪れ、無数の十字架を建てていく。ひとりの母親が、十字架を刺した場所から、赤い粘着質の土が飛び出しました。母親はその土を手にとり、泣き崩れたのでした。
父親のひとりは「この赤い物体はすべて人間の一部だった。こんな目に遭わせるなんて、本当に許せない」と語る。


さらに、ある母親は語ります。「いっそのこと、息子の死体を家の目の前に捨ててくれたほうが、よかった。こうやって形ないものに変えてしまい、存在すら消そうとするのは、最も卑怯なやり方だ」


全編に流れる静謐な電子音楽は、遺族の心に寄り添い、もう戻ってこない者たちへのレクイエムのように聞こえます。この音楽を手がけたのは、ティファナのレーベル、Static Discosを代表するアーティストで、メヒカリ出身のFAX。

以下のリンクからサントラが聴けます。

Fax – “Pie de página (STA071)”.

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メキシコの麻薬組織の抗争といえば、日本で、ものすごい映画が公開されます。


(2015年4月11日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開)

昨年観た映画のなかで、最も気に入ったドキュメンタリーの傑作です。
観ていただければ、けっして暴力だけを捉えた映画でないことをわかってもらえると思います。『皆殺しのバラッド〜』については、また改めて紹介します。

■関連記事 Static Discosの代表Ejivalのインタビューが掲載されています



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